海外日本人が日本人コミュニティの中で老いていくのは悪なのか
NYのコリアン老人たちが引き起こしたマクドナルド事件をキッカケに書いたコラム、【海外で老いていく私たちの居場所】関連のツイートの中に、以下のツイがあったんですね。
海外で老いていく私たちの居場所 nynuts http://t.co/Qs5DhStk8e この記事から抜けているは、70年代の韓国からの移民ラッシュで、移民1世は、英語も覚えず米国社会に同化できないまま孤立してしまった、という点 http://t.co/6Omobx2vt3
— Gen Shibayama (@gshibayama) 2014, 1月 20
これを読んで、私は「おや?」と思ったんです。引っかかったのは以下の部分:
<この記事から抜けているは、70年代の韓国からの移民ラッシュで、移民1世は、英語も覚えず米国社会に同化できないまま孤立してしまった、という点>
ちなみに私が今回のコリアン老人マクド事件を知ったのは、http://www.dailymail.co.ukというサイトで、おそらくその元ネタはNYタイムズの以下の記事だったはずです。
NY Times: 【Fighting a McDonald’s in Queens for the Right to Sit. And Sit. And Sit.】
この2つの記事には、前述の<英語も覚えず米国社会に同化できないまま孤立してしまった>的なことは書いてなかったんですね。
━━━朝鮮日報の記事
で、上記のツイにあったリンクに飛んでみたらありましたよ。朝鮮日報の日本語版。記事のタイトルは【米マクドナルド追い出された韓国系高齢者、その背景とは】。
同記事から問題の部分を引用します。
<今回の「マクドナルド事件」は、1970年代に本格的な米国移民が始まった1世の高齢化と無縁でない。>
<「米クイーンズ・カレッジ在外韓人社会研究所」の調査によると、韓国系米国人のうち60歳以上の人口は90年の5%から2006年には10%に増えた。10年の米国人口調査で韓国系米国人が141万人だったことを考えると、約14万人以上が60歳以上と推定される。>
<移民1世は米国社会になじめないまま、生活のため金を稼ごうとあくせく働き、何の趣味も楽しみも持てなかった。また、米国で教育を受けた1.5世や2世たちは主に英語を使うので、子どもたちといろいろ語り合うのも難しい。このため、同じ境遇の1世たちと過ごすのが唯一の楽しみになっている。>
私はこの書き方、特に<移民1世は米国社会になじめないまま、生活のため金を稼ごうとあくせく働き、何の趣味も楽しみも持てなかった>の部分が物凄く引っかかるんですよねえ。
━━━上から目線の書き方
同記事を書いたのは朝鮮日報の特派員なんですが、なんかこういう一種の悪意を感じる物の書き方って、本国の見方だよなあって思ったんです。韓国から見た在米韓国移民、あるいは日本から見た在米日本人永住組とか。明らかに上から目線ですよね。
たとえば<移民1世は米国社会になじめないまま、生活のため金を稼ごうとあくせく働き、何の趣味も楽しみも持てなかった>の部分だけ読んだら、記事のコリアン老人たちって負け組みたいじゃないですか。
違う違う、彼らはチョー勝ち組なんだって。
━━━コリアン老人たちをよ~く見てみる
私がコリアン老人たちをかばおうとするのはですね、今回のマクドナルド事件が起こったNYのフラッシング( Flushing)という町と、彼らコリアン老人たちをよく知ってるからなんです。
サンクスギビングやクリスマスなどの際に、私はときどき:
【悲報】珍しく事前にプランしたかみさんの実家のクリスマスパーティー。現時点で以下の事件発生。
1)かみさんがRice&beansに水入れすぎて溺死
2)その事件を聞いた義妹がラザニアを作るものクックし過ぎで焼死
3)慌てて焼きチキンを探しにいくもどの店もクローズ
何食う?
— Hiroyuki Takenaga (@nynuts) 2013, 12月 25
のようなツイートをするんですが、そのツイを送信してるのがNYのフラッシングにある、うちのかみさんの実家からなんですね。フラッシングとの付き合いはすでに18年ぐらいでしょうか。
あと、かみさんの実家は2階をコリアン老人夫婦に貸してますし、実家があるブロックはほぼ全員がコリアンかチャイニーズ。なので、道端で英語を聴くことはほとんどナシ。おそらく大部分の住民たちは英語しゃべれないと思います。
ちなみに、その辺りの一軒家って日本円で軽く7000~8000万円するんですよ。そんな値段でもコリアンやチャイニーズたちがガンガン買う買う。英語もろくにしゃべれないのに。
━━━英語ヘタクソなのに
フラッシング辺りに住んでるコリアン老人たちは、アメリカに留学に来てそのまま永住することになったというタイプじゃなくて、おそらく結構なトシで韓国から移住してきた人たちが多いと思うんですね。中には老人移住組もいるはずです。
当然英語はうまくない。
でも、英語が下手でもやれる商売、たとえばデリとかネイルサロンとか洗濯屋とかコリアン向けビジネスをやって、日本円で7000~8000万円する家をガンガン買える人たちもたくさんいて、その子供たちは医者や弁護士、果ては政治家になったりして、自分たちのシニアセンターも作って・・・
これって凄くない? そんなもん、チョー勝ち組でしょうに。移民の中では抜群にエリートよ。
━━━自分たちで創った社会
あと、実際に彼らに会ったらわかるんですけど、すんごい幸せそうなんですね。そりゃそうでしょう。フラッシングであれば、韓国語だけで余裕で暮らしていけるし、韓国系のスーパーを初めとして何から何まであるし。
その環境を創ったのも彼らだからね。英語は苦手かもしれないけど、それでも生きていける社会を自分たちの手で創ったわけ。凄すぎるわ。
━━━老人たちの原点回帰
今回の朝鮮日報の記事でもうひとつ気になったのが:
<同じ境遇の1世たちと過ごすのが唯一の楽しみになっている。>
の部分です。
「それって当たり前だろ。老人ナメてんのか」って思ってしまいました。
NYのような人種・民族ミックスの街では、年を取ると共に老人たちが己のルーツに回帰する様をよく目にします。老体に鞭打って自分とは違う人種・民族に体当たりするんじゃなくて、文化や価値観を共有する仲間たちのもとに返っていくわけです。
NY日系人会がやってる敬老会とかに行けばわかるんですが、そこに来る老人たちの中には、日本語が一切話せない日系二世・三世のじいちゃん・ばあちゃんたちもいるんですね。同敬老会を運営してるのはほとんどが日本人で、一種の日本語の世界なのに。
なぜ彼らは来るのか。
おそらく日系二世・三世のじいちゃん・ばあちゃんたちは、年を取るごとに原点回帰してると思うんです。両親あるいは祖父母が漂わせていた、あの日本人的空気が懐かしくて。
ちょっと極端な例なんですが、うちのドミニカ移民の義母もアルツハイマーになってから、原点回帰のスピードが恐ろしく加速しましたね。お昼過ぎると、いくら英語で話しかけても返ってくるのはスペイン語ですし、もうドミニカ料理しか食べません。
つまり、老人たちが自分と同じルーツを共有する人たちと集おうとするのは、非常にナチュラルな行動だと思うんですね。
それにですよ、年取ってまでPolitically Correctというか、政治的に正しくあれ、とか誰も言われたくないって。「バランス良くいろんな人種・民族と付き合って」が理想なのはわかるけど、そんな老人います? もしチョイスがあるなら、普通は「仲間」たちと一緒にいたいですよね。別に世界平和のために生きてるわけじゃないんだから。
━━━自分が居たい場所で堂々と年を取る
今回はNYのコリアン老人についてでしたが、たとえば海外日本人が、世界各地の日本人コミュニティ内で老いていくことは、ぜんぜんOKだと思うんですね。
何も現実を知らないヤツに
<社会になじめないまま、生活のため金を稼ごうとあくせく働き、何の趣味も楽しみも持てなかった。>
とか
<同じ境遇の1世たちと過ごすのが唯一の楽しみになっている。>
などと言われる筋合いはない。自分が居たいと思うコミュニティの中で堂々と年取ればいいのよ。
でもマクドナルドを乗っ取るのは程々に。