nynuts

にゅーよーく・なっつ。

間違ってウンコを食べたことがあります。

<Nutsアーカイブ>

 それはある朝、突然起こった。

 その頃、私は沖縄の離島でテント生活をしながら土方のアルバイトをしていた。

 朝のすがすがしい空気の中、現場への道を軽やかに歩いていたとき、突然来たのである。嵐のような便意が私の腹部を襲ってしまったのだ。

 「ト、ト、トイレはどこだ~」と苦しみにもだえながら周りを見回した。それらしきものは港の待合所のトイレしかない。死にそうになりながらそのトイレに駆け込み、しゃがむと同時に「ドッカーン」。

 「フーッ」と安心のためため息をつき、尻を拭こうとトイレットペーパーを探した。でも、ないのである。紙がないのだ。「あらま」と独り言をいいながら、とりあえずここを出るためにレバーをひいた。

 でも、流れない。水が流れないのである。「記念にいいか」とウンコをそのままに、尻がふける環境を探して、そこを後にした。

 なるべくパンツが肛門にくっつかないように、少しつま先立ちになりながら知り合いの漁師の家に向かった。「おばちゃん、ちょっとトイレ貸し手ねえ」とその家のトイレに駆け込み、パンツをおろした。

 紙を尻拭き用に丸め、「いやいや大変でした」と言いながら尻を拭いた。

 ところがである。なんとあまりに力を入れすぎたために、右手の人差し指が紙を突き抜けて肛門にじかに触れてしまったのだ。慌ててその人差し指を確認してみると、なんとウンコがドップリ付いているではないか。「あらまぁ」。

 仕方がなく、紙で拭こうとトイレの紙に手を伸ばしたとき、ふと自分のパンツに目を止めた。これまたなんと、パンツにウンコがしっかりと付いているではないか。その頃、テント生活をしていたため、あまり洗濯などしていなかったものだから、このパンツにウンコがつくというアクシデントはなかなかインパクトのあるものだった。

 明日からどのパンツをはけばよいのだろう、という不安が頭の中を支配する。なんとかこのパンツに付いたウンコを拭き取らなければならない。水気のものが必要なのだが、周りには見当たらない、紙で拭いてもいいのだが、やはり気持ちとしては水分を含んだもので、できるだけ奇麗に拭き取りたい。とかなんとか考えているうちに思い出したのである。人間には唾(つば)という水分がある事を。

  結局、唾しか見つからなかったので、それを使う事になったのだが、では何に唾をつけて拭き取るか?普通は当然紙なのだろうが、この時私は何を血迷ったのか「指」で拭き取る事に決めてしまっていた。多少は汚いが、ま、後で洗えば何とかなるだろうと非常に軽い気持ちであった。

 問題のパンツのウンコはなかなか量的に手強そうであったので、私の方としてもそれなりの唾の量で対抗せねばならない。そして、私は最も使いやすい指、「右手の人差し指」をゆっくりと口に運び、深々と口の中に含み、できるだけ多くの唾をつけるため、その指を口の中の上の部分と舌ではさみ込み、ゆっくりと引き抜いたのである。

 そのことに気が付いたのは今にもパンツのウンコに接触しようとしていた時であった。自分の目の前にある右手の人差し指からあるものがなくなっていた。そして、ゴクリと生唾を飲み込んだその時、ある味わいのあるものが食道へと流れ込んでいくのを感じてしまったのである。

 でもまずくはなかったな。

 

*「週刊Nuts」1994年11月15日号(NO. 35)